『ソーシャル・ネットワーク』社会的動物の本質

あまり予備知識無しにFacebookの創業物語?何でこんなに話題になっているの?くらいに思って観たら,実在のFacebookのことなんかオマケ程度。ものすごい映画だった。圧倒的で呆然としてしまう。内容は違うが『アメリカン・ビューティー』とか『スラムドッグ$ミリオネア』なんかを観た後の感じ。これもオスカー獲るよね。2011年最初に観た映画が2011年最高作になりそう。

以下ネタバレありの感想。

まず冒頭。どこかで町山智浩さんがアスペルガーのことを書いていたのを見ていたので,ザッカーバーグとエリカの会話で吹き出しそうになった。あまりにもアスペルガー。この会話で心奪われて,あとは息をつく隙もないまま駆け抜けるようなスピード感でお話が進む。会話劇でもあるので,自分の英語力不足が無念,字幕の字数が全然足りない。

私自身,(自称)軽度のアスペルガー疑いがある。同居人殿に尋ねたら,あそこまで酷くはないがすごく似ていたとのこと。幸か不幸かザッカーバーグ程は酷くないが,幸か不幸かザッカーバーグ程の天才も無く,人間の特質のバランスは興味深い。そういうわけで,劇中のザッカーバーグには共感するばかり。(「共感」という言葉はアスペルガーぽくないか)

そんなアスペルガー人間がFacebookを5億人の会員を抱えるSNSに創り上げる。私は「社会的動物」である人間にとっていちばん重要な要素が「ソーシャル」だと思うが,それ故にFacebookはここまで成長したのに,仕掛けた人間は「ソーシャル」を理解出来ないアスペルガー...という構図。皮肉というか溜息がでる思いだった。

このような構図の中「ソーシャル」が浮き彫りになることで,同時に人間の「身体性」が希薄になっている感覚を覚えた。たとえば『攻殻機動隊』シリーズでも身体性はテーマになっているが,複雑系であるネットに飛び交う関係性=ソーシャルの中から,身体を持たない生命である「人形使い」のゴーストが産まれている。この映画では,マッチョ双子が身体性を象徴しているようにみえた。イギリスのレガッタ試合で,突然ティルトシフトで撮影されたミニチュア風映像になるのも,現実感を無くし身体性を希薄に見せようとしてるのでは?と思う。

...なんて考えていたところ,町山さんが引用していたツイートで,

@s_hakase 『ソーシャル・ネットワーク』、見た後に聞かされた中でいちばん驚いたのは、あの双子が本当はひとりの俳優で、CGで顔をくっ付けたってことです!(町山さん情報)
http://twitter.com/takehirohiguchi/status/26549432916905984

という話を読んでタマゲてしまった。あれだけ映像の中でモリモリマッチョに身体性を誇示していた双子が,全然気付かないレベルでCGだったとは。あんなジョナサン・ジョースターの体にディオの首をすげ替えたような双子俳優も居ないからCG使ったのかもしれないけど,身体性の象徴もCGで描いちゃうんですよ!と言われているような気がした。

エンドロールのキャスト名を読んでる力も無かったし,すごくヤラレター感で一杯。

そのエンドロールも素晴らしい。ラスト,(アスペルガー的に)エリカに固執してリロードを繰り返すザッカーバーグに,問いかけるようにThe Beatlesの"Baby You're A Rich Man"がかかる。

優雅な人々の一員になった感想は?

自分のアイデンティティを得た今

次は何になるつもりだい?

ずっと遠くまで旅をしてきたのかい

目の届く限りのところを?

内田久美子著『ビートルズ全詩集』より

 

ザッカーバーグのアスペルガー度など,脚色が入ってフィクションになっている部分は多いらしい。

あらゆる表現は(フィクションもノンフィクションも)作り手が現実を見て、それを自分なりに再構成した創造物だから、「ソーシャル・ネットワーク」も事実そのものじゃないですよ。 RT @cozmiclive: RT
http://twitter.com/TomoMachi/status/26568387630993408

エドゥアルド視点でデヴィッド・フィンチャーが創造したフィクション部分のおかげで,Facebook創業の物語よりも「ソーシャル」が重要なテーマになり,'00年代のネット社会をより際立たせているんだろう。タイトルが『フェイスブック』ではないのもそういうことか。観る前は現在進行中の人物の伝記?なんで?と少し疑問だったが,劇中の会話のスピードのように進んできた'00年代という時代を記録し,ネットで拡大した人間の本質「ソーシャル」がこれからの'10年代にどうなって行くのか?を見つめる映画なのだと思った。

あと,Napsterのショーン・パーカーの山師っぷりもたまんないですね。

最後に...『恋ナポ』とか『ヤマト』ばっかり観てちゃダメですね。よく分かりました。