恋するナポリタン「腹十二分目」フィルムパートナーズ

料理人のタマゴの視点からみてみます。

マクロビ

※副読本によると大半の料理がマクロビ準拠だそうです。

マドンナのプライベートシェフだった西邨まゆみ氏が監修なので,ハードコアマクロビオティックが展開されるかと思っていたら,いちばんよく出る料理はオムライス,エビ・魚も出てきて,マクロビは腹四分目くらい。

いかにもマクロビなのは冒頭に出てくる「セイタンのカツレツ」と「玄米粥(リゾット・ア・ラ・ジャポネーゼと大層な名前がつく)」くらい。セイタンは"正"しい"蛋"白質の意味で小麦グルテンでつくった代用肉。何が正しいんでしょうね?衣がついてるからまずそうには見えないけど,同じく冒頭に出てくる「豆腐モッツァレラのピッツァ」これはやばい。いくらモッツァレラが豆腐っぽいといっても焼いて糸引いて伸びるはずなく,厳しそう...

包丁の研ぎ具合

ナポリが包丁を前にかざして研ぎ具合を見るシーン。ナポリの恩人シェフや,日本での師匠亀次郎が同じクセをもっていて,それを受け継いでいることを印象づける意図。ケイティーもそう言ってます。けど,自分の包丁なら研いでいるかなんてわかってるし,目で見るより指で触った方がわかりやすいと思う...これ指導したの誰なんだろう?ABCクッキングスタジオなのかい,ケイティー?

タマネギみじん切り

まずみじん切りの大きさが粗いのが気になるけど,料理の用途にもよるから一概には言えません。それよりも,切るスピードが妙に遅くて,包丁をトントントンと音立てながら使ってるのが気になる。家庭料理ならそんな「お母さん切り」でいいんだけど,現場だと間に合わない。包丁の動かし方は,私がプロの技術を学んだときにいちばんおどろいたことのひとつ。ピアノ演奏の手元はピアニストが弾いたのに,調理シーンは誰が演じたんだい,ケイティー?

結婚披露パーティでのナポリと甥

亀次郎と相武紗季の結婚披露パーティの料理をナポリと甥が担当する。内輪だけとはいっても35人は客がいる。対する料理人は2人...これはなかなかキビシイですよ。調理場は相当に荒れるはず。けど,ナポリと甥がいる調理場はとても綺麗で,料理に使ってない食材が飾るように置かれてるだけ。そこでナポリはやっぱりタマネギのみじん切りに励んでる。パーティは昼だから,トマトソースに使うだろうタマネギのみじん切りなんて前日か午前に済ませているはず。

そして1品目のオムレツ。1人前にMサイズの卵3個くらい使ってる。てことは,100個の卵をわりほぐして,半熟ふわふわのオムレツを35個仕上げないといけない。これだけでも2人の現場は戦場になってるだろうに,食材はない,ナポリと甥は出す料理と関係ない野菜切りをしてる,調理器具が包丁とまな板くらいしかない,火がついてる気配すら(IHかもしれないけどね)ない状況。

...という具合に,とにかくパーティの裏側にリアリティがまったくなくて,会場と調理場の時制がぜんぜんわからなくなります。『パルプフィクション』や『メメント』もびっくり。時空が歪んでるのかい,ケイティー?

披露パーティの料理

パーティで振る舞われるコースは,ナポリと相武紗季が中学生の頃からの思い出料理。コース構成などお構いなしに,思い出順に出てくるので,新婦はともかく客は食べるのが大変だと思われます。まあ結婚式は新婦のものだからいいのか。

1品目のオムライスが大変なせいか,他の料理はあまり手がかからない点は理に適ってるかも。2品目の「ズッパ・ディ・マーレ」は具を盛ってスープを注ぐだけでOK。

そして,3品目が「チョコレート」...もう1回書くけど「チョコレート」。さすがにおかしいと思う観客を説得するためか,亀次郎は「これはまた斬新だ」なんて感嘆してみせる。さらにチョコの後は「バーニャカウダ」と「玄米粥」。1品目で米食わせといて,チョコなんて濃い味を食わせ,さっぱりした野菜とお粥...なんて斬新なんだろう。これはアレか?居酒屋なんかで〆にお新香とご飯物を食べるみたいな気分なのかい,ケイティー?

さて新婦だけにはナポリとの約束の料理「ナポリタン」が振る舞われます。甥の「ナポリタンはイタリア料理ではないですが...」という説明セリフつき。

コースをふりかえってみると,「卵3個くらい使ったオムライス」「伊勢エビ半尾と魚介のスープ」「手の平大のチョコ」「野菜スティック数本」「玄米粥1人前」に,新婦はさらに「1人前のナポリタン」。満腹どころか動けなくなりますよ。これじゃ腹十二分目でないかい,ケイティー?

コック服の襟

※2回目鑑賞時に確認したところ,きちんとイタリア色でした。お詫びいたします。

ナポリがナポリと呼ばれるようになったのは子供の頃ナポリにいた帰国子女のため。ナポリにいた頃両親を亡くしたナポリの面倒を見てくれたシェフがいます。回想シーンで彼は包丁の研ぎ具合をキラーン!と確認するんだけど,コック服の襟がどうもおかしい。フランス国旗のトリコロール,赤・白・青にみえる。この襟,フランスではMOF(国家最優秀職人章)を受けた料理人がつけることが多くて,イタリア人,それも「郷土愛十二分目」のナポリ人が着るはずがない。これは私の見間違いなのかい,ケイティー?